第8号(P.4~5)アメリカ ウェストバージニア州 教育労働者の巨大ストライキ

「誰が歴史を作った?」「われわれが作った!」

▼激しい引き締め政策に労働者の誇りをかけて決起

 新自由主義の外注化・海外移転―労組破壊によって荒廃させられた「ラストベルト(赤錆地帯)」の典型であるウェストバージニア州で、公教育の労働者が全州55郡のすべての公立学校で2週間に及ぶストライキを貫徹した。AFT(アメリカ教員連盟)傘下、NEA(全米教育協会)傘下の組合が、組合の壁を越えて団結した全州ストだ。

 同州の公立学校教員の賃金水準は、全米50州のうち48位と最低ラインであり、そのため賃金がましな隣接する州の学校へ移る教師もいて、現在では欠員が700名以上にも及んでいる。欠員補充に際しては、十分な訓練期間もなく、教員資格が不十分な場合も多々あるという。また、教育現場への州当局の資金も年々減らされ、生徒の教育環境も最悪だ。さらに議会は、教師の先任権(*)の撤廃と教員資格の緩和を狙っている。それで、「教師が生活できなければ、生徒に十分な教育ができない」と、物価上昇に伴う生活可能な賃金を求めて、5%賃上げを掲げストライキに起ちあがったのだ。

 ストのもう一つの重要な要求は、健康保険の問題だった。州当局は、州の公務員保険協会(PEIA)に対して何年間も十分な補助金を出しておらず、毎年保険料が上っていた。そのうえ今回は、「トータル・ファミリー・インカム」という制度を新設し7月から実施すると発表した。本人の収入に対してだけではなく、家族全員の総収入額に対する保険料を徴収するもので、ほとんどの人が倍近い保険料を求められることになる。

 スト集会では「リスペクトを!」のプラカードが林立した。賃金破壊、医療保険破壊は、労働者の誇り、尊厳への攻撃だ。

*先任権――勤続年数の長さの順に解雇から免れ、また復職も優先されるという権利。当局・資本が恣意的に被解雇者や復職者を選び、団結を破壊することを防止するために、労働運動の歴史の中で勝ち取られた。

▼30年代以来の根こそぎ決起

 ウェストバージニア州では公務員のストが禁止されており、公共部門の労働者のストには解雇の危険がある。それも覚悟で2万人を超える教師と1万3千人以上の学校スタッフが、「違法スト」に突入したのである。スト基金もなく団体交渉権もないウェストバージニアの教育労働者が固く団結し、州内すべての学校でストを開始した。活動家たちの地道な組織化が、当局、裁判所、地域反動の重圧を打ち破ってこの丸ごと決起を作り出した。

「1920年代の「バージニア炭鉱戦争」は『違法スト』だった。55年のモントゴメリー市の黒人女性ローザ・パークスが白人席に座ったのは『違法』だった。この大先輩たちの『違法』な闘争が歴史を作った」「今、われわれが歴史を作る番だ」

 最初は1日だけの「ウォークアウト(職場離脱)」の呼びかけで2月22日に始まったが、2週間の長期ストに発展した。街頭に繰り出し、歩道でピケを張り、州議会に押しかけて高まる公教育の危機を訴えた。学校ストは、全労働者階級とともに団結した闘いだ。

 地域社会全体が新自由主義の下で貧困化を強いられ、学校給食でかろうじて飢えをしのいでいる生徒も多い。だから教育労働者のストライキ委員会は、学校閉鎖に先立ってあらかじめ食料を調達し、スト中の生徒への食料配布の中心になった。

 学校ストに生徒や保護者を含む支援の輪が広がり、通信労組なども激励されたストに入った。当局も学校ストの力に押され、5%の賃上げと「トータル・ファミリー・インカム」の保険料大幅値上げ制度の凍結を発表せざるをえなくなった。要求を貫徹した教師たちは、「誰が歴史を作った?」「われわれが歴史を作った!」と歓声をあげた。

 ABC、NBC、CNN、FOXなど全米の大マスコミもこのストを連日報道した。大統領選挙でトランプが7割の票を獲得したウェストバージニアでの大ストは全米の支配階級に衝撃を与えたのだ。

 「20年代のウェストバージニア炭鉱地帯の労働者の蜂起の亡霊が再び立ち上がった」「両親とともに炭鉱ストのピケットに立った少女が、今学校ストをやっている」(3月5日、ニューヨークタイムズ) イギリスの大手新聞『ガーディアン』なども大きく報じている。

▼全米に「州丸ごとスト」の波

 ウェストバージニア州のストライキは、全米の他の州の教育労働者や他の職種の労働者にも波及している。オクラホマ州の教員の賃金レベルは50州中49位だが、「賃金とスタッフを増やせ」というウェストバージニアのストライキに呼応し、「ウォークアウト??今こそ起ちあがる時!」というグループを立ち上げて、4万1千人の全州の教育労働者に、4月の第1週にウォークアウトに参加しようと呼びかけている。ケンタッキー州やアリゾナ州の教育労働者もこれに続くウォークアウトを計画している。ニュージャージー州ではジャージーシティー教組がストに突入した。

 ウィスコンシン州では2011年、州知事・州議会による公務員の団体交渉権剥奪に対する巨大な反対運動にもかかわらず、それが強行され、労組は組織率の大幅低下など大きな後退を強いられてきた。だが、ウェストバージニアのスト以降、ミルウォーキー市教組による教育当局の占拠・弾劾闘争など、大きな闘いが再び開始されている。

 新たな時代が切り開かれた。30年代以来の根こそぎ決起、実力闘争が広がっている。

国際連帯共同行動研究所

新たな労働者の「インターナショナル」の建設を目指す研究所です。